【1on1 Days イベントレポート】
8月3〜5日の3日間、1on1における現実の工夫や挑戦を共有するオンラインイベント、1on1 Daysを開催しました。事業環境や働き方が変化していく中でマネジメントはどう進化していくのか。そして、現場ではどのような工夫や挑戦がなされているのか。
このセッションでは、株式会社KAKEAI インタラクションラボの所長であり、前アクセンチュア執行役員人事本部長の武井章敏氏をお招きして、1on1の究極の目的や、関わり方が変える個人と組織の可能性、VUCA時代においてマネジャーに求められる役割についてお話しいただきました。
Profile
ゲスト
武井章敏氏
株式会社インタラクションプロ 代表取締役
株式会社KAKEAI インタラクションラボ所長
前アクセンチュア執行役員人事本部長 兼 グローバルHRマネジメントコミッティメンバー
モデレーター
皆川恵美
株式会社KAKEAI 取締役 共同創業者
Q:1on1・対話を通じて、何が起きていくのか?
武井氏:私はKAKEAIで、インタラクションラボという、一緒に1on1や上司部下の関係を通じて一人ひとりの力をどう最大化していくかを考える活動をしています。今日は「1on1を、何のために・どういう心構えで・何を目指して行ったら、1on1が熱いものになっていくのか?」というお話をしたいと思います。
皆川:KAKEAIは1on1支援ツールを提供しており、ご利用いただいている企業様は、対話を重点施策として打ち出されています。一方、現場の方には対話の価値がなかなか伝わりづらく、「業務の中で喋ってますよ」という声もあるのが実情です。まずは「対話によって何が起きていくのか?」という話から始めたいと思います。
皆川:組織の成功循環モデルでは、「関係の質」が上がると「思考の質」が上がり、「行動の質」が上がり、「結果の質」が上がる、グッドサイクルに入る。まずはお互いの信頼関係を築いて「関係の質」を高めることから始めましょうと言われています。一方、現場の方からすると、いきなり「関係の質」と言われると戸惑いもあると思います。武井さんはどう思われますか?
武井氏:ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」は有名な話ですが、私は「結果」を出すために「関係」の質の改善から始めるというのは、正直間違いだと思っています。
なぜ「結果」を追い求めすぎると色々なバランスが崩れ始めるのかというと、今は結果が出にくい世の中になってるからです。今の時代は様々な環境変化が起こるのが前提なので、勝利の方程式を導き出しづらい構造にあります。お客様のニーズも変わります。新しい多様な人も組織に入ってきます。
では何から始めたらよいかというと、それは「行動の質」を上げることだと思います。なぜかというと、行動を起こさなければ何も起こらないからです。
もう一つお伝えしたいのは、「関係の質」を上げるのは「行動の質」を高めるためだということです。ですから、1on1で「傾聴しましょう」「相手の声に耳を傾けましょう」というのは、それ自体が目的ではないということです。メンバーの方がその先に行動していけることが、1on1の目的だと思います。そのためには、自分自身がメンバーのためにどう行動しサポートできるのかを念頭に置いて、関係の質を作っていくことが大事です。
このような視点でこのサイクルを見つめていただけると、1on1をより効果的に進めていくことができると思います。
皆川:まず行動の質から循環サイクルをまわすことで、結果も含めて共通の体験になる。そうすると関係の質もよくなり、メンバーの思考もまわっていく、というお話ですね。
武井氏:働きがいのある企業ランキングを行っている『Great Place to Work』の調査結果によると、「社員のエンゲージメントが上がるには、大体10年ぐらいかかる」と言われています。どうしてそんなに時間がかかるのかを主任研究員の方に聞いたところ、こんな答えが返ってきました。
「嬉しいこと、悲しいこと、楽しいこと、辛いこと、様々なことを一緒に乗り越えて初めて、エンゲージメントはできる。仲良しクラブでは決して強いチームはできないし、エンゲージメントも生まれない。その人と一緒に色んなことをやって、成功したり、失敗したり、よかったね、残念だったねという経験をするのに、大体10年かかる」と。
それをどうやって意図的に、もっと短いスパンで、「行動の質」の改善につながる「関係の質」を作っていけるかが、まさに1on1の醍醐味だと思います。
皆川:最初は信頼関係を構築して相互理解をするところからだと思いますが、どのように捉えればよいでしょうか?
武井氏:1on1におけるマネジャーの行動キーワードとしてよく言われる、傾聴や自己開示、承認、問いやフィードバックというのは、その通りだと思います。が、これが目的ではないということです。この先にメンバーの行動が起こらないと、やっている意味がありません。行動の質を上げることにお互い目を向けて対話をしていくことが、非常に重要だと思います。
皆川:ここで視聴者からの質問をご紹介します。「行動の質から変化させることは完全に合意です。一方、メンバーとの関係性が構築できていないマネジャーは、どのようなコミュニケーションをとれば行動の質の変化につながるのか、迷っているように思います。その場合はどうしたらよいでしょう?」というご質問です。武井さんはどう思われますか? 
武井氏:非常に良いご質問をいただき、ありがとうございます。少し厳しい発言になるかもしれませんが、部下に行動してもらうためには、自分が行動しないと始まりません。山本五十六の「やってみせて、やらせてみて」ではないですが、部下がチャレンジしようとした時に、自分にできることは何かをしっかりと話し合い、マネジャーとして自分にできることをサポートしてあげること。そうしなければ部下は動きようがありません。
「こんな情報があればいいのでは?」「こういう人に話を聞きにいったら? 私が繋いであげるよ」「私にできることがあれば、どんなことでも相談してください」と、部下と一緒になってやっていく。上司としてやるべきことをやってあげることが、まずは第一歩ではないかと思います。
皆川:前半をまとめると、1on1は「対話をする、コミュニケーションの質を高める」ところを一生懸命やりがちですが、大事なのは、その先に行動をしようとしているのか。さらにその先にはどんな世界を目指しているのか。そういった目指す姿を見据えてこそ意味のある対話である、ということですね。
武井氏:そうですね。何よりも大事なのは「何のために1on1を行うか?」です。各企業によって様々な事情、背景、ステージがあると思いますが、個人的には、仕事の話は普段から然るべきタイミングで話せばよいと思っています。その日の仕事の話はその日の朝に、その週にやるべきことは月曜日に、その月に何をやるべきかは月初に、と。
では1on1で一体何をやるかというと、将来の可能性がどこにあるのか、そこに向かって一緒に何ができるのかについて対話し、次の行動に繋げていくことだと思います。
「何をしてほしい、どう行動してほしい」という話ではなく、「一緒にやろう」という話をする。企業の中の上司部下、リーダーとメンバーというのは、最小単位であり一番小さなチームです。そこで一緒になって何かをやろうと。
何がやりたいのか、どこまでできるのか、今は何を作っているのか、プロダクトができたらステークホルダーの皆さんはどうハッピーになるのか。そこを考えた上で、さらにその先の目指す姿を一緒に考える。それができたら、お互いにできることを出し合って、前に進めていく。上司と部下はそういう「チーム」で、ここが弱気だと会社は絶対に強くなりません。
お金がないなら取りにいく、協力してくれる人がいないなら探し出す、必要なツールがないならそれを見つけ出す。そういう行動につながっていくことが、1on1をやる本当の意味です。潜在的なまだ見ぬ未来に向けて、何ができるかを考えるのは現場の我々で、社長でも役員でもありません。そういう1on1ができれば、個人だけでなく、チーム、組織、会社の将来の価値を上げ、社会の活性化に繋がっていくと思います。
皆川:視聴者から「1on1をやっていく本当の意味、素晴らしい。ここで制約を入れてしまったら、それ以降の変化を起こせない。スモールな1on1ではなく、大きな1on1を目指していきたいです」とのコメントをいただきました。ありがとうございます。
Q:今から一歩進めるために、何ができるのか?
皆川:ご視聴中の皆さんの中には、1on1が組織として既に浸透している方から、1on1をこれからスタートしようとされている方まで、幅広くいらっしゃるので、ここで少しKAKEAIの紹介をさせていただきます。
KAKEAIでは1on1の前に、メンバーの方に「何を話したいのかの『トピック』」と「上司に求める『対応』」を選んでいただきます。1on1が終わったら、メンバーの方に「すっきりボタン」を押していただき、1on1のフィードバックサイクルが回っていく仕組みです。
武井氏:KAKEAIには、メンバーが上司と何を話したいかを事前に考え、今日はこういう話をしようという合意のもと、話し方・伝え方というところに様々なデータが蓄積されていきます。10,000件以上のデータ、ファクトに基づいた示唆、有効性の高いアプローチの仕方などがKAKEAIの中に凝縮されています。今の時代にはこのようなツールがあるので、1on1でKAKEAIを使わない手はないと思います。
皆川:ありがとうございます。ちなみに、マネジャーの方の立場だと、メンバーの話したいことを尊重しながらも、将来に向けての対話を引き出していく必要があります。みなさん、必要性を自覚しながらも難しさを感じていらっしゃると思うのですが、武井さんのご視点でアドバイスはありますか?
武井氏:一番最初にお伝えしたいのは、全てのことをリーダーや上司に任せすぎてはいけないということです。リーダーや上司の方は、今、大変だと思うんですよ。ありとあらゆることが乗っかってきます。コロナだ、業績が落ちている、チームのモチベーションが下がっている、何とかしろ、と。
従来のように、基本的な仕事の流れや仕組みがそれほど変わらなかった時代は、上司が経験で色々なことを教えてあげることもできました。今は時代が変わり、これまでの経験が通用しなくなっているので、今までと同じようなマネジメントは難しくなってきています。今日参加されている方の中で、社長、人事のトップ、事業部長の方がいらっしゃったら、「ミドルマネジャーに全てを任せすぎないでください」という大前提については、まず最初にお伝えしたいことです。
ミドルマネジャーの方は、全てを自分で抱えこまないことが重要です。ではマネジャーの方が何をしなければならないかというと、メンバーにとっての最適解と思われることを繋いであげることです。課題を解決するために、誰と繋いであげたらよいのか、どんな勉強をしたらよいのか。メンバーが様々なサポートをもらえるようなネットワークやリソースを結びつけてあげることが重要で、そのためにはマネジャー自身が思考の範囲を広げていく必要があります。
メンバーが適切な行動を起こすための橋渡し役を行い、躊躇したり戸惑っていたら背中を押してあげる。マネジャーがそういう役割を担うと、1on1が非常に有益な場になると思います。
皆川:事業部の企画の方や人事の方の立場だと「1on1の効果を証明しなさい」という話がどうしても出てきてしまいます。本質的なのは「1on1からどういう体験、行動が生まれるのか」ということだと思いますが、1on1の本質を見失わないためにはどのような意識が必要でしょうか?
武井氏:今皆さんが1on1のどのステージにいるのかを把握し、何を次の一歩として踏み出すかが重要だと思います。1on1は結局コミュニケーションです。コミュニケーションを豊かにする、関係の質を上げるというのは、簡単に言うと「あなたが何を考えているのかを周りに伝える」ということだと思います。
「私自身が何に対してどう考えているのか、どうしてそう思うのか、何がやりたいのか」。それに対して、「あなたはどう思うんだ、どうしたいんだ」という、このインタラクションが大事だと思います。ただ、考えて言葉にして伝えればいいのです。
第一歩としては、「こんな言い方をしたら恥ずかしいかな」「まとまっていないのにこんなことを言ったら時間の無駄かな」という心理的な障壁をどう取り除いていくかが非常に重要です。そんなことを心配している暇があるなら、まずは1on1で話してみましょう、ぶつけてみましょう。そこから次のステップが始まっていくんじゃないかと思います。
うまくやろう、成功させよう、忙しいから短い時間を使って最大の効果をあげよう、という既存の概念を一旦手放すことも必要だと思います。なぜかというと、時代が変わり、効率よりもクリエイティブが重視されている世の中なので、失敗もうまくいかないこともあっていいと思うんですね。まずはやってみること。失敗したら、では次はどうしようか、と。その繰り返しができる上司部下の関係が一番強いと思います。それができる組織は素晴らしく、必ず新しい価値を生み出しますし、「まずはやってみよう」という企業文化を作るきっかけにもなります。まずはそういう視点で1on1に取り組んでいただければと思います。
もっと議論したい、こんな事を一緒に考えていきたい、という方がいらっしゃれば、インタラクションラボへのご登録をお願いします。みなさんと一緒に議論を重ねることで、1on1をより良いものにしていけたらと思っています。