1on1はメンバーが自ら決めて行動するために、メンバーの背中を押すための場。共感を大事に、メンバー自身が持っている答えを引き出す。

【1on1 Days イベントレポート】
8月3〜5日の3日間、1on1における現実の工夫や挑戦を共有するオンラインイベント、1on1 Daysを開催し、組織と一人ひとりの今とこれからに向き合う企業とマネジャーに登壇いただきました。このセッションでは、「話を聞いて欲しい」という1on1でPeople Success Awardを受賞された、日本電気株式会社の五十嵐紀明氏をお招きして、現場における1on1で、どのような工夫や挑戦をされているのかをお話しいただき、今後のマネジメント進化についてのヒントを探ります。また、五十嵐氏の直属の部下でいらっしゃる三浦氏もスペシャルゲストとしてお招きしました。
Profile
ゲスト
五十嵐紀明氏
日本電気株式会社
公共ソリューション事業部 シニアマネージャー
三浦康孝氏
日本電気株式会社
公共ソリューション事業部 関東甲信越グループ 新潟支店
モデレーター
皆川恵美
株式会社KAKEAI 取締役 共同創業者
Q:現在、どのような位置付けで1on1を実施していますか?
五十嵐氏:私のミッションの大きな一つが、組織課題を解決していくことになります。そのためにも、メンバーの声をダイレクトに拾うことが重要になってくるので、1on1を実施しています。具体的には、部内のどういうところに不満があるのか、メンバーのみなさんがどのような問題意識や課題感を持っているのかを吸い上げることにあります。現在、三浦さんのような直属部下のマネジャーとの1on1と並行して、マネジャー直下の主任や現場の担当者とも「スキップ1on1」を実施しています。
五十嵐氏:つい最近のスキップ1on1では、週1で1on1をやっている三浦さんのグループのメンバーが、その頻度を本当に負担に思ってないか、改めて聞いてみました。個人的には負担になっているメンバーもいるのではないかと思っていましたが、実際に聞いてみるとみんな「負担になんてなってないです、逆にすごくありがたいと思ってます」と。その話は三浦さんにもフィードバックしました。当事者ではない私が聞くことで、メンバーの改めての本音や、別の観点の話が聞けるのが、スキップ1on1の良さだと思います。
三浦氏:私が聞けない話を、五十嵐さんだからメンバーが話をしてくれるということは必ずあると思っています。それを五十嵐さんが私にフィードバックしてくれるのは非常にありがたいです。五十嵐さんにやっていただいているスキップ1on1は、マネジャーにとってもすごく価値があると思います。
皆川:三浦さんは今年の4月に昇格され、4月からメンバーとの1on1を始められたと伺っています。現在どのような位置付けで1on1を実施されていらっしゃいますか?
三浦氏:現在、週に1回、全メンバーと30分の1on1を実施しています。私の組織はメンバーが新潟・群馬・栃木・茨城の4拠点に分散しており、特に拠点が離れているメンバーについてはなかなか状況を掴みづらいです。1on1の場を活用してメンバーと密にコミュニケーションをとりつつ、大前提としてメンバーの心理的安全性を担保するようにしています。
皆川:4月から1on1をスタートするにあたって、工夫されたことはありますか?
三浦氏:メンバー自身が1on1の意味合いを肚落ちできる機会を作りたいと思い、1on1の目的ややり方、グランドルールに関する資料を作成して、チームメンバーにプレゼンをする場を設けました。メンバーのための時間と言いながら、押しつけになっては逆効果になるので、1on1の意味合いを一通り説明した上で、最後にメンバー一人ひとりに「1on1の頻度を選んでもらう」形をとりました。
まず最初に自己紹介で自己開示をした後、1on1の目的については「相互理解を経て、メンバー全員が前向きに業務に取り組むこと!コミュニケーションの場!」と定義し、第一ステップでは「信頼関係の構築」、第二ステップでは「メンバーみんなの成長を支援していくこと」を目的として伝えました。1on1の事前準備は「メンバー自身が話したいトピックと、自分に期待する対応を、事前に設定するだけ」とし、具体的なトピックを幅広く例示しました。メンバーから出そうな質問については、「よくある質問」として予めまとめておきました。
1on1実施中の意識は「オープンな対話」「自分のための時間に」「(マネジャーとメンバーの)2人で共に作っていく」の3つが大事であると伝え、カメラの設定をONにする、話す割合などの細かいルールも予め設定しました。最後に、成功する組織が「関係の質」を起点にしていること、「関係の質」を高めることで、正の循環が起こり、思考・行動・結果、全ての質が高まること、その「関係の質」を1on1で作っていきましょうと説明した上で、最後にメンバー一人ひとりに1on1の実施頻度を選んでもらいました。結果、メンバー4人全員が「毎週1on1をやりたい」となり、現在週1回1on1をやっています。
皆川:五十嵐さんは、三浦さんのように1on1に取り組んでいらっしゃるマネジャーの方がいらっしゃることを、どのように捉えていらっしゃいますか?
五十嵐:三浦さんの場合は、1on1の重要性をすごく理解していただいている。組織を運営する中で、やはりマネジャー自身がしっかりドライブしていかないと、1on1のコミュニケーションはなかなかうまくいかないと思います。そういった意味では、主任や担当者にも1on1の意味合いをしっかりと説明した上で1on1を始めたのは、非常に良いことだと思います。
Q:具体的にどのように1on1を行っていますか?
皆川:日々1on1を実施される際に、マネジャーとして臨むスタンスや、場の雰囲気づくり、会話の流れなどで意識されていることはありますか?
五十嵐氏:メンバーがリラックスして臨めるような場をつくることを意識しています。役職が上だから偉いというのは勘違いなので、1on1の場では、一人の人間として対等に会話をするよう心がけています。そして、相手に話を聞く時には、いきなりこちらが質問をして、メンバーがそれに答えるのはなかなか難しいので、その前に少し自分のことに触れて話しやすい環境をつくるようにしています。
あとは、メンバーに共感することが重要だと思っているので、相手の立場に立ち、相手の考えるロジックを理解してしっかりと受け止め、まずは自分の中で納得することを重視しています。たとえ聞いてて「おかしいな」と思っても、「この人のこういう立場で考えると、そう思っちゃうよね」…と一旦受け止め、理解・納得するようにしています。そうしないと、その先本人が何も話してくれなくなったり、会話がそこで終わってしまうので、その点は気をつけています。
三浦氏:私が意識しているのは、私自身が話しすぎないことです。話すボリュームは、マネジャー3割:メンバー7割ぐらいを心がけています。意識しないと私が話しすぎてしまい、そうすると私は満足するのですが、メンバーには不満が残ると思うので、かなり気をつけています。メンバーが自発的に話せるよう、メンバーが話しやすい雰囲気を作ることを大事にしています。
皆川:日々の1on1はKAKEAIを使いながら行っていらっしゃるんでしょうか?
三浦氏:KAKEAIを使って、予めメンバーに、1on1で話したいトピックと、私にどういう対応を求めているのかを決めてもらっています。それによって、各メンバーがどういうことを私に期待しているかを1on1を始める前に把握できるので、私自身の準備にもなります。それにより、話にスムーズに入って行きやすいと思っています。私の部下は4人いるのですが、それぞれ設定するトピックが異なっていて面白いなと思っています。
皆川:業務のことを中心に選ぶメンバーもいれば、それ以外のキャリアやスキルを選ぶメンバーもいるというような、バリエーションがだんだん見えてきていらっしゃるということでしょうか。
三浦氏:その通りです。KAKEAIには、各メンバーがどのトピックをどのような割合で話しているかを一覧で集計してくれる機能もあるので、すごく参考になっています。
Q:1on1という時間を設定することで、自分自身/メンバーの変化は?
五十嵐氏:1on1やスキップ1on1で定期的に話すことで、メンバー一人ひとりのパーソナリティ、モチベーションがどこにあるのか、日々の悩みが分かるようになりました。私の部門は組織改変が頻繁にあり、物理的に拠点も7拠点に分かれているため、もともと組織的な課題感を持っています。意識的に1on1をやっていかないと組織が崩壊していくと思っており、今はマイナスをゼロにする動きです。今後1on1をしっかりやっていかないと、マイナスがゼロにもならないし、ゼロがプラスにもならいので、1on1を続けていくことでいい方向になっていくのではと思っています。
皆川:もし1on1をやっていなかったら、どういう状況に陥っていたと思いますか?
五十嵐氏:日々のコミュニケーションが会議やメール、チャット、電話のみになり、相手が何を考えているかについては全く分からなくなっていたと思います。関係性も希薄になり、自分の部下というより、他部門のたまに一緒に仕事をする人という感覚に近くなってしまっていたのではないかと思います。組織としての体裁が保てなくなっていた気がします。昔は不満に思っていても会社を辞めるという選択肢はなかったですが、今はいろんな選択肢が増えているので、この会社はダメだと感じたら、次に行かれてしまいます。そういう動きを多少なりとも抑止することはできている気がします。
皆川:テレワーク下では、マネジメントする側の意識が多様になってきているように思えます。その点についてはどう思われますか?
五十嵐氏:1on1はやる人とやらない人の差が大きいですが、それをマネジャーの意識だけに委ねてしまうのは危険です。1on1はその重要性をマネジャー自身が理解して取り組まないと、なかなかドライブできないと思います。1on1の重要性をマネジャー全員が理解すること、そこが原点だと思います。
皆川:そのような意識が醸成されたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
五十嵐氏:今までは酒を交わしながら話すことで、なんとなくその人のことを分かった気になっていた気がします。でも、1on1でメンバー一人ひとりと向き合うようになって、表面的に見えていた部分と、実際に本人が思ってる気持ちは、180度違うことがあることを最近実感します。また、飲みにいって本音を聞き出すとしても、全員に対して公平にやっているマネジャーは少ないと思います。一人ひとり、趣味嗜好も考え方も違いますので、そういった意味でも、1on1は公平に感じます。
皆川:三浦さんはこの数ヶ月間1on1に取り組まれてきて、メンバーの変化を感じますか?
三浦氏:1on1をやり始めて数ヶ月、早くも効果を実感しています。私が大事にしているのが、答えはメンバー本人が持っているということです。対話を通してそれを引き出してあげるのがマネジャーの重要な役目だと思います。メンバーが自ら「私はこうします!」と発したことでないと、次の行動には移らないので、それをいかに引き出せるかに注力して1on1に取り組んでいます。最近、メンバーの行動が少しずつ変わってきたように思います。五十嵐さんにも「あの子、よくなってきたね」と気づいてもらい、とても嬉しかったです。改めて、1on1にはすごく効果があると実感しています。
Q:1on1の難しさや、それに対する工夫は?
皆川:1on1について、改めて難しいと思われる点があれば教えてください。
五十嵐氏:一番難しいのは、メンバーから本音をどう引き出すかということです。メンバーの本音を引き出すのが1on1の目的の一つだと思っていますが、これがなかなか難しいです。ある担当者の話では「別のマネジャーとの1on1では、信頼関係がないので本音は話せない」という声もあります。やはり難しさはそこですね。
皆川:リモートワークになったことでコミュニケーションが少なくなり、どうしても業務ミーティング中心になってしまい、結果的に日常的に信頼関係を構築するのが難しくなっている側面もあると思います。信頼関係を構築して積み上げていくこと自体が1on1の目的に入っているということですね。
五十嵐氏:そう思います。長年一緒に働いてきて、今たまたまコロナでリモートワークになっている、ということであれば、既に信頼関係ができているので一時的にはなんとかなるかもしれませんが、うちの会社は異動も多くなっており、働き方も多様化しています。そして今後は、リモートワークで働くことが当たり前になります。その中で信頼関係を構築するのは、今までと同じやり方では難しいと思うんですね。だからやはり、1on1の中で信頼関係を構築していくしかないと思います。
皆川:それはものすごく大きな変化ですね。メンバーと信頼関係を作っていく点で五十嵐さんが意識されていることはありますか?
五十嵐氏:自分を包み隠さず話すのは大切だと思います。あとは、相手の話を遮らないこと、メンバーの話をしっかり聞き、まずは受け止めること。メンバーのリアルな声として、「この人と1on1をやると、宿題が出るから話したくありません」という話も聞きます。困っているから1on1で相談しているのに、宿題を出されても全く解決にならない、と。明確なアウトプットがあるもの以外で宿題を出すのは、逆効果だと思います。なので私自身は、1on1の場では宿題をあまり出さないようにしています。
皆川:三浦さんが改めて1on1について難しいと思われる点があれば教えてください。
三浦氏:関係性構築の先にある、メンバーの成長支援を1on1の場で行なっていきたいのですが、そこがなかなか難しいです。メンバーの中には「成長した」と言ってくれる子も出てきましたが、今も悩みながら取り組んでいます。
皆川:先ほどお話しになったところですね。背中を押すとか、自分の中に答えを見つけて次に進んでもらうとか、メンバー自身に気づきを与えるとか。それに対する日常的なトライや工夫は、どのように行われていますか?
三浦氏:なによりも、メンバー自身から答えを引き出すことを大事にしています。「三浦さんはどう思いますか?」と聞かれたりもしますが、できるだけ答えないようにして、質問で返すようにしています。私が答えてしまうと、押し付けられた答えでしかなくなってしまい、主体性が発揮されなくなってしまいます。
五十嵐氏:もし、自分の中でまだ答えが見えていないメンバーがいた場合は、メンバーが考えるための整理を手伝うスタンスで臨んでいます。自分で自分のことが分からない、どうすべきかも分からないというメンバーの場合は、対話を通して少しずつ具体化し、どこで迷っているのかを紐解いていきます。本人が気付いてくれれば、答えは自分で持っている状態になるので、それを自ら発した言葉として引き出せばよいと思っています。そこに至るまでの整理を手伝ってあげるのも1on1の役割だと思います。
皆川:あくまでもメンバーのための時間として、メンバーが気づくためのサポートをするというスタンスですね。私も非常に勉強になります。ありがとうございます。
Q:1on1とは?
皆川:最後に改めて「1on1とは何か?」という問いを立てると、どうお答えになりますか?
五十嵐氏:1on1は、メンバーが自ら決めて行動するために、メンバーの背中を押すための場ではないかと思います。1on1でメンバー一人ひとりと対話をしていると、メンバー自身も自分なりの意見を持っていることが分かります。マネジャーに「意見を求める」というより、「自分の考えに同意してもらって、背中を押してもらいたい、自信を持ちたい」と考えているメンバーの方が圧倒的に多いと思います。それを、メンバー自らが発する言葉として引き出し、背中を押してあげるのが、1on1であり、マネジャーの役割ではないか、と思います。
三浦氏:私にとって1on1とは、『伴走』です。メンバーのためにマネジャーが作る特別な時間であり、メンバーのモチベーションを上げるための場だと思っています。営業組織の場合、マネジャーが直接お客様を担当することはできませんし、お客様に直接対峙することもできません。その中で売上を上げていくためには、メンバーのモチベーションを上げるしかありません。マネジャーの役割はメンバーのモチベーションを上げることであり、1on1はそのためにも非常に有効な場だと思っています。
皆川:1on1を難しい場と捉えられている方が多いように思います。傾聴やコーチング、ティーチング等、なにか特別なスキルが必要なのでは、と。そうではなく、相手の立場に立って話を聞く、メンバーが自ら決めて行動するためのサポートをする、という「スタンス」の方が1on1の結果を左右するということでしょうか?
五十嵐氏:1on1は「スキル」よりも「スタンス」が重要だと思います。コーチングやティーチングというと、マネジャーの方が上位に立っているように聞こえます。業務上の指示命令であれば別ですが、1on1はあくまでも対等な場です。相手の立場に立って話を聞き、メンバーが自ら決めて行動するためのサポートをするスタンスが、1on1の結果を左右すると思います。