1on1を通じて、「豊かさと夢の実現」を働く個人が実感できる組織に
住友商事株式会社
理事
モビリティ事業第一本部長
諸星正樹 さん
Q:1on1による「対話」を重要視されている背景を教えてください。
コロナ渦という状況下において、働き方のベストミックスにより在宅勤務という働き方も定着してきました。しかし、組織における人と人とのコミュニケーションが取りにくくなっている面は否めません。上司と部下がお互いの人となりや考えを理解し、悩み事も共有することで納得感とやりがいをもって仕事が進められるとの考えから本部内で1on1の制度を導入しました。
業務が複雑化、高度化して難しくなっていく時代だからこそ、人と人とのコミュニケーションを充実させていくことが大事だと思います。会社の経営自体は、ゴーイング・コンサーンで常に進化していくわけです。経営の考え方、経営指標、お客様からの要請も高度化していく中で、新しく対応しなければいけない仕事が量的にも増え、質的にも上がってきています。
それに加えて地政学リスクも高まる中で、自動車業界がこれまでに経験していない状況も生じました。組織としても新陳代謝を進めて変化を進めていますが、だからこそ、心理的安全性のある中で、心を通わせながら、皆で同じことに向き合うことが必要なのではないでしょうか。
Q:1on1を通じてどのような組織状態を目指されているのでしょうか。
住友商事の企業使命は、“健全な事業活動を通じて豊かさと夢を実現する。”です。この豊かさと夢の実現を本部内に所属する皆さん個々人が心から実感できるようにしたいと考えています。自らの本部として、部署としての組織目標に向かって進んでいくわけですが、その過程において組織内の個々人が「より良い心持ち」で過ごしていただきたい。企業使命に掲げられている“豊かさと夢の実現”とは、当社が社会に対して貢献を謳っておりますが、組織内で働く個々人が“豊かさと夢の実現”を実感できれば素晴らしいなと個人的には考えております。
個々人の課題や心の持ち様、仕事以外の周辺の状況もしっかり聴く機会をもち、相互理解を深めていくことが大事です。業務を進める上で必要なことだけを話をしていると仕事だけのリレーションに。しかし、仕事以外のテーマも含めて対話をしていくことで、お互いがより豊かな心持ちで仕事に向き合えると思います。
Kakeaiで1on1をやることによって、人と人との関係における心理的安全性を確保した上で対話できることが良いと感じました。もちろん、1on1で仕事をテーマにして普段できないような中長期の課題について充実した会話をしたいということもあるでしょう。キャリアの悩みの相談ももちろん重要です。
けれども最も重要なことは、仕事、キャリア、プライベートなど多面的な角度から会話しながら、仕事以外のことでもお互いが共感し合える関係を築いていくことです。上司と部下がお互いに人としての幅や奥行きを理解しているからこそ、心理的な安全性が生まれます。心理的な安全性があるからこそ、心配事や失敗についても話せる関係になるわけです。高度化して難易度の高い業務を進める組織においてはこうした関係性が基盤として必要だと考えています。
私も1on1は毎月定期的に話ができる機会なので、毎回メモをとっています。振り返ってみると1on1を重ねるごとに幅広い話ができています。例えば、とある部長との1on1では、家族構成やお子様の最近の状況を聞けたことで、相手の人となりを改めて理解する機会になりました。普段のビジネスの会話では指示や報告が中心となりますが、1on1では普段できない会話を通じて心理的な一体感を得ることができています。
Q:1on1をスタートしてから感じている変化はありますか。
やはり、あえて1on1の時間をとることが習慣づけられたことが良かったですね。私も驚いたのですが、皆さん業務が忙しい中でもある部長は月に10数回も1on1をやってくれています。私は逆に上司側の負荷が心配になって部長に声をかけました。しかし、その部長からは「部下との1on1に価値を感じているので大丈夫です」と返答がありました。部下に向き合おうとする管理職が増えているのは、組織全体にとっても心強いことだと思います。
まだ1on1を始めたばかりですが、アンケートを見てみると、本部内の上司と部下の双方で満足している人が多くいます。1on1を継続していくことによって、毎年実施しているエンゲージメントサーベイの結果も改善していくのではないかと期待しています。
1on1は組織改善のための重要なツールです。だからこそ部下の方にも「本当に思っていること」を話してもらいたい。部下の方には、匿名ではなく自分の言葉で感じていることを話してもらい、上司にはしっかり向き合ってもらいたいですね。1on1の掛け合いの最初から本音が言えなくても、回数を重ねることで上司のパーソナリティが見えてくると部下の方も話やすくなっていくものです。だからこそ、まずはお互いのことを知って心理的安全性を実感できる状態にしていくことを上司と部下が一体となって進めていきたいです。
私も含めて全ての上司が100点満点ではないでしょう。しかし、1on1での対話を起点に改善方法を考えていくことや、上司同士が連携して問題解決をしながらより良い方向に向かっていけると思います。
Q:今後、1on1を進めていくうえで重視されたいことを教えてください。
コミュニケーションは、息抜きにもなり励みにもなり、ひいてはモチベーションの向上に繋がっていきます。業務が忙しくて時間がないというのは誰しも同じ状況にあるとは思います。しかし、制度化しているのは無理にでも時間をしっかり確保する意義があるからです。働いている個々人である我々の豊かさが実現されていなければ、会社の発展もありません。だからこそ、まずはしっかり1on1時間をとることを最低限やっていきたいですね。
もし、上司の時間がとれなくてもリーダー層に委譲することや、上司職間で連携するなどの運用上の工夫はできるのではないでしょうか。上司も部下も抱えすぎないようにして、1on1を継続できる状況を作っていくことも必要でしょう。1on1の意味は、「一対一だからこそ話せることが伝えられる」ことに尽きると思います。会議の場や一対三や一対四の場では、色んな人に触れられたくないこともあるでしょうし、場に対する遠慮もあるでしょう。さまざまな配慮が不要な状態の場が1on1ですから、上司と部下が協力してより良い時間にしていってほしいですね。
本部としての発信も踏まえて、1on1でキャリアについての話をされている割合も高くなってきています。会社から言われたことをやるだけではなく、自分がどんな経験を積んでいきたいのか。当社や日本のみならず世界的にも働く個々人が自らのキャリアを積極的に積み上げていくことの重要性が説かれています。部下の方にとっては自らのキャリアプランを考えるという意識を高めていこうということですね。但し、それを一人で考え切るというわけではなく、1on1という機会を活用して上司と語り合いながら考えていけば良いわけです。「考えたことを聞いてもらおう」という壁打ちでも「整理されていなくてもどんな可能性があるかを一緒に考えてもらおう」というざっくばらんな相談でも「ちょっと上司に伝えてみよう」というスタンスで皆さん自身が対話を通じて得られる新しい発見を楽しんでほしいですね。
※上記事例に記載された内容は取材当時のものです。