会社は人であり、ピープルマネジメントは経営・事業の根幹。1on1で従業員を深く知り、一人ひとりを最大限活かしていく。

【1on1 Days イベントレポート】
8月3〜5日の3日間、1on1における現実の工夫や挑戦を共有するオンラインイベント、1on1 Daysを開催し、組織と一人ひとりの今とこれからに向き合う企業とマネジャーに登壇いただきました。
このセッションでは、「キャリアについて」の1on1においてPeople Success Awardを受賞された、三井住友DSアセットマネジメント株式会社の久米隆史氏をお招きして、経営者という立場での1on1で、どのような工夫や挑戦をされているのかをお話しいただきました。久米さんは執⾏役員としてシンガポール現地法⼈のCEOを担当されており、シンガポールからご登壇いただきました。
Profile
ゲスト
久米隆史氏
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
執行役員 シンガポール現地法人担当
Sumitomo Mitsui DS Asset Management(Singapore)Pte.Ltd. CEO
モデレーター
皆川恵美
株式会社KAKEAI 取締役 共同創業者
Q:マネジメントにおいて、1対1の対話をどのように捉えていますか?
久米氏:弊社のシンガポール現地法人は、2つの現地法人が2020年6月に合併してできた会社で、コロナ禍の中、赴任時から従業員とオフィスでは会えない中でコミュニケーションをとっていかなくてはならない環境にありました。昨年の夏からKAKEAIを使い始めましたが、KAKEAIで1on1の機会を確実に持てたことが、私にとっても従業員にとっても、非常に良かったと思っています。15人の小さな現地法人ですが、私たちがやってきたことが少しでも皆さまのお役に立てればと思います。
皆川:マネジメントにおいて、1対1の対話をどのように捉えていらっしゃいますか?
久米氏:従業員やスタッフをよく知るための、非常に良い機会だと捉えています。マネジメント職においては、自分たちの会社・グループ・チームのスタッフそれぞれが、どういう能力を持っていて、何をやりたいのかを知り、従業員の能力を活かしてあげることが非常に重要な仕事の一つだと思います。そのためには、一人ひとりとよく話して、その人のことを知らなければなりません。
皆川:久米さんがメンバーの方と向き合う際に大事にしていらっしゃるのは、今と将来の視点で把握することだと思います。
久米氏:会社が3年後にどうありたいのかを、今いるスタッフ・メンバーに長く働いてもらい、活かしていく前提で考えると、人をどう伸ばせるのか、その人が持っている力をどう発揮してもらえるのかが鍵になります。そのためには、今楽しく働けているのか、向上心を持てているのか、自分の能力を活かしきれているのかを知ることが、現在を知るということだと思います。
将来の視点では、本人が一番伸ばしたいと思っていることを聞いて支援することで、その人のモチベーションを高めて、3年後にはもっと組織の力になってもらえるのではないか、と。そんなことをいつも考えています。
皆川:力を発揮するための環境を整える、そのためには何よりも個人を知ることが重要だ、という位置付けで1on1を捉えていらっしゃるのですね。
Q:具体的には、日々どのように1on1を行なっているのか?
皆川:久米さんはメンバーとの1on1を実際どのように行われていますか? 若手メンバーと経験を積まれているメンバーとでは、1on1のやり方が違うのではないかという声をよくいただくのですが、その点についてもお許しいただける範囲でお話しください。
久米氏:相手によって1on1のやり方が違うというのは、誰もが悩んでいることで正解はないと思います。現在、10人と毎月1on1をやっていますが、その中には若い方も30代の方も50代の方もいらっしゃいます。当然話す内容も違ってきますし、将来のキャリアプランについて話せる若い方のほうが1on1が盛り上がる傾向はあります。
若い方には、将来のキャリアプランをどう考えているのか、どのうような力をつけてどのような姿を目指したいのかを聞きます。海外では、その人の将来の延長線上に今の会社があるかどうかは別問題ですが、「成長する中で、当社でいかんなく力を発揮していただきたい」という姿勢で話し、最大限成長して集中して仕事に向き合っていただくことが、若い方たちとの1on1のテーマです。
一方で、将来のキャリアプランというテーマがフィットしない方も当然いらっしゃいます。その方々には、当社で仕事をしていく中で、「システム的に新しい動きがありますよ」「こういうことを知っておいた方がいいですよ」という情報を少しずつインプットし、「進歩が止まるのは良くないので、社会も会社も変わっていく中、変化に対応できるようにしましょうね」という話をしています。
全員が少しでも良い方向に変わっていけるようなきっかけづくりを意識しています。人それぞれで捉え方が違うかもしれませんが、私からは常に前を向いて人を活かしていく働きかけをしたいと思っています。
皆川:ここで視聴者からのご質問を紹介したいと思います。「1on1のテーマをどう設定しているのか?」ということですが、久米さんはメンバーにどんなお声がけをされて、どのようにテーマを決めていらっしゃいますか?
久米氏:基本は、本人の自由に任せています。「この時間は従業員・スタッフのための時間なので、何でも好きなことを言ってきてください」と。これが基本です。毎月やっていると、前回の1on1で話していたテーマからスタートするケースも多いですが、基本は何でもいいと伝えています。
皆川:1on1をやっていくうちに話すネタがなくなる、1on1をうまく継続するコツを知りたい、という声もよく聞きますが、久米さんからテーマを投げかけることもあるのでしょうか?
久米氏:あります。例えば「何かを学んでいく・勉強していく」というテーマは、会社の方針として私から投げかけたこともありました。会社として応援するので、学ぶ機会を見つけましょう、と。会社運営の一部になりますが、そういう働きかけをして1on1で一人ひとりと話し、それが従業員の自己研鑽に繋がっていく。最近の1on1はそんな形で行っています。
Q:1on1を行う上で重視していることは? どの程度踏み込んだ話をしていますか?
久米氏:一番大事なのは、1on1が有意義だと思ってもらうことです。「月一回、つまらない時間がまた来てしまった」と思われることは、避けなくてはなりません。1on1で話したことが、何かのきっかけになるんだ、プラスになるんだということを、あるいは愚痴を聞いてもらえるということでもよいので、1on1に意味があることを分かってもらうこと。それが継続に繋がっていくと思います。
では、有意義なものとは何か?というと、1on1で話したことがきっかけとなり、何かがちゃんと変わっていくことだと思います。メンバーが不安や不満に思っていることを、ちゃんと聞いてあげる。そして、実現できることはすぐに実現していくことが大事だと思います。
現地法人特有の話かもしれませんが、従業員のみなさんから「会社で入っている医療保険に不安なところがある」という話が出れば、今入っている保険の説明会を保険のブローカーの方に実施してもらって、不安な点を解消する。「雇用形態について政府の規制が強くなってきた」という話が出れば、ちゃんと調べて、その規制がかかる従業員の方に対応の道筋を示す。というような対応をしています。
若い方だと、1on1で処遇の話も出ます。「私の知り合いは、転職して年収が2倍になった」と。そんな話もちゃんと受け止め、「その人は、どんなキャリアで、どんな会社に行って、どれぐらいの水準で今もらっているの?」「実際、君にはオファーがきているの?」「どれぐらいの水準が目安なの?」「将来的にはどう思っているの?」というところまで話を聞くようにしています。
その場で都合の良いことを言ってすませると逆に信頼を損ねてしまいます。できることは確実に早めに解決します。逆に結果にコミットできないことは、私にできる範囲で約束をするか、私が努力することを約束するようにしています。例えば処遇の話では、「『来年〜再来年はこの金額を出します』というコミットはできないけど、自分ができる努力はしていく」と話しています。
これらを積み重ねることで、「1on1で話せば、何か変えてくれる、何かやってくれる」と思ってもらえて、1on1を非常に意味のある場にしてもらえると思っています。
皆川:できないことをできると言ってしまうのは信頼関係を棄損しかねませんが、約束できるのは私が努力することだと言われると、従業員の方もパワーをもらえるような気持ちになりますね。
Q:1on1の難しさや、それに対する工夫は?
久米氏:従業員を知るには、まずは話をしてもらわなければなりません。人によっては話してくれない方、話をしづらいと感じている方もいらっしゃるので、話しやすい雰囲気作りが重要だと思います。
私が心がけているのは、聞いた話を否定しないことです。否定すると次の言葉が出てこなくなるので、まずは聞く。どんなことであっても、それは無茶だろうという話であっても、まずは聞くようにしています。そして「そうかそうか、どうしてそう思うの?」と、否定せずに話を引き出すようにしています。必要があれば「こういう考え方もあるよね」と言うこともありますが、まずは、言えば聞いてもらえるという雰囲気作りがとても大事だと思っています。
最近は特に、普段話す機会が減っています。シンガポールは全員在宅勤務なので、この2ヶ月は従業員の方とほとんど会っていません。最低限月一回の1on1、あとはリモートでミーティングをするぐらいです。なかなか会わないと硬くなってしまう方もいらっしゃるので、話すチャンスがある時には、とにかく柔らかい雰囲気を作り、従業員が話をしやすいように意識しています。
皆川:視聴者の方から「個人を知りたくてもなかなか難しい。有効な問いかけはありますか?」というご質問をいただきました。やはり最初は、柔らかい雰囲気で受け止めることがポイントになってきますか?
久米氏:そうですね。将来どう考えてるかを明確に持っている場合はすぐに答えが返ってきますが、答えが返ってこない方の中には、実はあまり考えていないというケースもあります。
1on1は何回も続いていくものなので、「こんなことを聞きたい、それが分かるとこんなサポートができる、だから考えていることを教えてね」と頭出しをしながら、その時に答えがないと思ったら、少し柔らかく会話をしていきます。
1on1は考えを固めてもらう機会でもあるので、話しやすい雰囲気を作りながら、考えていることを少しずつでも話してもらえるよう心がけています。少しでも話してもらえたら、それが従業員からの相談になるかもしれませんし、少なくとも一歩前に進んだことになります。その時に完結するのではなく、長い目で見て引き出していく。次に教えてね、その次に教えてね、というアプローチでもよいと思います。
皆川:「否定をしないとはいえ、メンバーが理不尽なことを言ってくることもあり、どう伝えていけばよいのか迷うこともあります。伝え方のポイントがあれば教えてください。」という質問もいただきました。
久米氏:過度に高い要求や、自分だけ特別扱いしろという不公平な要求など、色々あると思います。不公平感であれば、マネジメントの視点から「他の人との公平性を考えると、少し特殊すぎるので、理由もなく特別扱いはできないよ」と柔らかく諭してあげることが必要だと思います。なぜ理不尽だと思うのかというマネジメントの考え方を、丁寧に説明するようにしています。私が気をつけているのは、「公平性」と「それが過度ではないかという客観性」で、主にその2つの観点で説明しています。
皆川:シンガポールは日本よりも厳しい出社制限の中、完全にテレワークで働かれています。テレワーク下のマネジメントの難しさについてはどうお考えですか?
久米氏:テレワークでも仕事の成果の管理はできますが、マネジメント上は従業員の気持ちを把握していくことが重要です。マネジメントとして一番怖いのは、従業員からの突然の「辞めます」という申し出です。オフィスで普段から接していると、なんとなく雰囲気や会話の中からその兆候が見えてきたりするのですが、テレワークだと余計に見えなくなっています。
突然の離職を防ぐためには、普段どんな気持ちで仕事をしているのかを把握することが重要ですが、同じ成果のアウトプットが出てきたとしても、それが本当に前向きに取り組んだものなのか、嫌だと思いながら取り組んだものなのかは分からないものです。どんな心情やモチベーションで仕事に取り組んでいるかを知るには、話をするしかないです。
実は1on1だけでは足りず、もっと普段からのコミュニケーションが大事だと思っています。それが難しい中、仕事とは関係ない話をしてもよい1on1という場が月一回確実にあるのは、非常にありがたいです。口実と言っては変ですが、従業員の方は月に一回あるものだと思っているので、これをうまく活用させていただいています。
皆川:別のご質問をいただきました。「久米さんは、テレワークの中でも社員の方の内発的な動機を引き出されているように感じましたが、引き出す秘訣はありますか?」という質問です。
久米氏:これも年齢層によって違ってきます。若い方、30代くらいの方を念頭に置くと、私の相手はシンガポール人の方々なので、かなり野心的です。話をする中で「どういう仕事だと給料が上がるのか」という話も当然出てきます。それに対して「こういう技術を身につけて、こういう仕事ができれば、もっと給料が上がるよね」という話をしてきました。
日本に置き換えても「こういうことができるようになると、タイトルが上がる、幅広い部署で活躍できるようになる」等、具体的なイメージを持たせてあげるのは共通だと思います。
私は常に「できることを増やそうね」と言うようにしているので、そのことがそれぞれの会社・組織の中でどういうメリットを享受できるのかを紐付けて話すと、肚落ちしていただけると思います。
皆川:おそらく1on1を推進されている立場の方からのご質問です。「社内で、1on1や対話の効果・成果が何なのかを、定性定量で求められることがあります。久米さんは経営・マネジメントという立場で、1on1の効果・成果をどのように捉えていらっしゃいますか?」と。
久米氏:けっこう難しいですよね。これから経験を経て何が成果なのかが分かってくるところだと思うので、今は答えを持ち合わせていません。現時点では、1on1をやることによって、組織が活性化されていく効果は実感しています。
もし効果を確かめたければ、1on1で面談する側の人に、面談されている部下のことをどこまで知っているかを聞いてあげれば良いと思います。1on1の効果は、部下をどこまで把握できているかという質問に等しいです。部下のことをたくさん分かっているのであれば、1on1の効果がしっかりあるということになります。それで成果がどれだけ出たの?という点は、すぐには結論が出ないと思います。その成果を感じるのは、これからだと思います。
Q:1on1とは?
皆川:最後に改めて久米さんのご視点では、1on1とは何でしょうか?
久米氏:最初から申し上げている通り、「スタッフをよくするための手段」だと思います。唯一の手段ではないと思いますが、今ある使いやすい手段としては非常に有効だと思うので、これをできるだけ使っていこうと思っています。
まさに会社は人です。放っておいても売れるような製品を扱っている会社でない限り、やはり人が根幹で、つまり従業員のモチベーションが非常に大事になってきます。上司や同僚が自分のことを分かってくれていること、常に自分は成長できるんだと実感できていることが、モチベーションに繋がっていきます。
平たく言えば「上司と部下のコミュニケーション」ということになってしまいますが、「部下を深く知り、何をしたがっているのか、何をさせてあげればいいのかを知るための機会」が1on1だと思っています。普段の業務だけの対話ではなく、1on1を「あなただけの時間。好きなことを言っていい、好きなことを相談していい場」として確保できているのは、組織のコミュニケーションにとって非常に大事なことだと思います。
会社は場所や組織によって全く違うと思います。ただ、人と人がしっかり仕事をしていく、気持ちよく仕事をしていくということが大事です。そうすることで、日本の会社がもっと強くなっていくと、もっと日本が元気になると思います。そういった意味でも、みんなで頑張って、日本人の従業員がみんな幸せになるといいなと思っています。