【1on1 Days イベントレポート】
8月3〜5日の3日間、1on1における現実の工夫や挑戦を共有するオンラインイベント、1on1 Daysを開催しました。事業環境や働き方が変化していく中でマネジメントはどう進化していくのか。そして、現場ではどのような工夫や挑戦がなされているのか。このセッションでは、国内オムロングループの人財育成を担う人財ソリューションセンタ人財育成部部長の粂田陽子氏をお招きして、1on1実践事例をお話いただきながら今後のマネジメント進化についてのヒントを探ります。
Profile
ゲスト
粂田陽子氏
オムロングループ オムロン エキスパートリンク株式会社
人財ソリューションセンタ 人財育成部 部長
モデレーター
皆川恵美
株式会社KAKEAI 取締役 共同創業者
Q:1on1 対話推進の背景とは?
粂田氏:我々はメーカーで、主には制御機器などを作っている会社です。より良い社会を創っていくことを企業理念に掲げていて、社会的課題をどう解決していくかをビジョン、ミッションとしています。今までは『モノづくり=より良いものを安く色々なところに届けること』が大きなミッションでしたが、これから先を見据えた時に、果たしてそれだけでいいのか、と。『モノづくり』から一部『コトづくり』に転換していくことが、事業上の課題の一つです。また、現在の組織を見ても、上司部下が自由闊達にディスカッションができて、メンバーが自分の能力を100%発揮できている状態にあるかというと、社内のエンゲージメントサーベイなどからも、まだまだ課題があります。それらを解決する手段の一つとして、上司と部下、同僚がちゃんと会話を深めていくことがキーになるのではないかと思ったのが背景です。
皆川:コロナ前後での変化はあったのでしょうか?
粂田氏:そうですね。コロナの影響もあり、特にこの1~2年で動きが加速した印象を持っています。
皆川:事業ドメインを転換していく必要性を感じておられる企業においては、同様に従来のマネジメントでは対応しきれないという感覚をお持ちの方も多いと思います。マネジメントについては、どのような問題意識を持っていらっしゃいますか?
粂田氏:今までは、経験のある上司が常に答えを持っている、上司の方が物事をよく知っている、という前提でマネジメントがなされてきたので、部下は「上司に確認すれば正解が出てくる、正しい方向に導いてもらえる」という状況でした。ところが、今の混沌とした状況では、誰も答えが分からないし、誰もが悩みながら進んでいます。必ずしも上司が経験上の答えを持っているわけではないという前提を置いた時に、「上司が指示命令を出し、部下がそれをやり切る、報告する、もしくは相談する」という従来のマネジメントだけで事業を進めていくのは難しくなっていくでしょう。オムロングループでは、公式的には『MBO面談』『キャリア面談』『能力開発面談』を半期〜3ヶ月に一度行っていますが、メンバーの心理的安全性を担保するためには、日常的にちょっとした困りごとや相談をタイムリーに行える環境が、今まで以上に必要になってくると思います。
皆川:人財施策を展開される立場としては、現場に負担をかけたくないという側面もあるかと思いますが、その点はどのように配慮されていますか。
粂田氏:全員出社して働いていた頃は、改めて場を設定しなくても十分だったかと思います。上司もメンバーの細やかな部分を無意識に拾えていたし、部下も上司の様子を見ながらタイムリーに相談できていたので。リモートワークになると、定期的な面談以外はどんどん抜け落ちていくので、敢えて場を設定しないと相手の状態を把握し感じる機会がなくなってしまうという印象です。1on1でメンバーの細かい気づきを拾っていくことが、定期面談の場を活かす流れにも繋がると思います。
皆川:各事業の変革の方向性やステージに応じて、1on1をどう位置付けるかも非常に重要です。全社一律で推進するのか、事業や部門の特性ごとに変えるのかについて、御グループの方向性はいかがでしょうか。
粂田氏:全ての組織が『コトづくり』に転換するわけではなく、従来型の『モノづくり』に立脚した組織はこれからも続いていきます。その中で一部『コトづくり』に移管していく組織があるという位置付けです。特に新規事業を考える開発部門は、従来型の「上位下達的な計画に沿ってものを作り、PDCAを回しながら改善を重ねていくスタイル」から、「アジャイル型でスピーディに、まずは作ってみてそこから修正をかけていくスタイル」に変わっていきます。
オムロングループも、全体で見た時には両者が共存する組織体になっていくと思います。『モノづくり』組織では、従来通り、決まったことをきちっと進めて、改善を重ねていく、生産性をあげていくことが求められます。一方、『コトづくり』組織では、よりコミュニケーションが求められるようになります。上司部下だけでなく、縦横斜めの対話から、新しい発想が生まれたり、新しいイノベーションの種が生まれるので、それができる環境を作っていくことが求められていきます。
Q:1on1 対話の推進のアプローチとは?
粂田氏:私自身、一部門を預かっている長でもありますので、全社的に1on1を進めていく前に、私自身が部下とちゃんと話ができているのか、部下が何を思っているのか、日々成長していると感じているのかが分からなかったので、2年ほど前に自部門でKAKEAIを導入しました。
最初に面白いと思ったのが、セルフアセスメントです。私自身、部下のことを分かっているようで掴みきれていない部分がありますし、部下も私のことを知っているようで、実は知らない。お互いに何が違うのか、どんなことが嬉しいのか、逆に嫌なのか、KAKEAIのセルフアセスメントの結果を見るとお互いの違いがよく分かります。意外なところで「そうだったの?」というメンバーもいました。私はこまめに確認するのがよいと思っていたけど、逆に本人からすれば「放っておいてほしい、相談がある時は自分の方から行く」というタイプだと分かった人もいました。そこで、そのメンバーにはアプローチを変えていきました。また、セルフアセスメントの結果自体が、メンバーとの対話と相互理解のきっかけにもなりました。
皆川:1on1をどのように進めておられますか? KAKEAIのメリットがあれば教えてください。
粂田氏:私自身が1on1で難しいと感じるのが、「部下がこの1on1で何をしたいのか」が、実際話し始めるまで分からないことです。その状態で臨むと、上司としては「今日は何の話をされるんだろう」と少しドキドキします。KAKEAIを使うと、メンバーが1on1で会話したいトピックと上司に求める対応を事前に設定してくれるので、1on1のゴールを事前に把握できるのが非常にありがたいです。上司として心の準備ができるし、必要であれば、前もって整理して臨むこともできます。KAKEAIを使うことで、メンバー自身が1on1を自分のために主体的に使おうとする意識も生まれたと思います。選択肢の中から選ぶという簡単な操作だけで、「1on1をしないといけないからしよう」ではなく、「私は今日の時間はこのために使うんだ」という各々の意識に繋がっていると思います。
皆川:KAKEAIでのメンバーの事前準備の部分ですね。例えば、業務の話、キャリアの話、スキルアップしたい、という話すトピックを選び、各トピックごとに、上司からアドバイスが欲しいのか、一緒に考えて欲しいのか、話を聞いて欲しいのか、報告したいのか、などの対応を選べます。
粂田氏:1on1終了後には1on1の満足度を、Monthly hearingでは1ヶ月を通して成長を実感しているかを、メンバーがフィードバックしてくれるので、自身のコミュニケーションや関わり方を振り返ることができるのもありがたいです。成長実感ってどう感じているのかなかなか聞きにくいですし、聞かれた方もなんと答えたらよいか分からないと思いますが、KAKEAIがあることで表面的には見えにくいメンバーの本音を把握することができるので、次の関わり方を考える材料になっています。全てをワンクリックで回答できるので、メンバー側の負担がないのもありがたいです。
皆川:データがマネジャーの方にフィードバックされることで、コミュニケーションや関わり方の改善サイクルがうまく回っていけば、関わり方の質の改善につながっていきます。一方で、人財育成部門長という立場では、グループ全体の1on1満足度や成長実感、関わり方実感などのデータをどのように活用されていますか?
粂田氏:成長実感は、上がってる時・下がってる時の理由を、マネジャー自身が把握できていたら良いと思っています。常に上り調子ということはないですし、時には落ち込むこともありますが、その落ち込む原因をマネジャー自身が把握できていることが大切だと思います。関わり方実感は、上司として関わっていると思っていることと、部下が関わってもらっていると思っていることに乖離がある場合がポイントだと思います。お互いの認識がずれている場合は、部下の捉え方、上司の関わり方のどちらかに課題があるのかもしれません。もし乖離がある場合は、一度メンバーと話したほうがいいですよとアドバイスをさせてもらっています。私自身もその乖離は気にするようにしていました。
粂田氏:自部門で実際に使ってみて良かったので、グループの各部門にも薦めていますが、それぞれの部門の方針もあるので、希望部門に紹介しています。グループ全体では、人財育成部門で実施する、上司部下コミュニケーションがテーマの研修や、新卒社員や中途入社者の活躍支援に、KAKEAIを活用しています。
Q:1on1を活用したマネジメント変革、中途入社者の活躍支援について
粂田氏:コロナになった途端に対面での研修ができなくなり、研修を止めるかどうかが昨年春のテーマでした。そんな中、メンバーから「学びを止めたくない」という強い声が挙がり、できる限りの手法で研修をやっていこうと決め、可能なものは全てオンライン研修に切り替えました。
当初は既存の研修をそのままオンラインに切り替えるぐらいの想定だったのですが、進めていくうちに、効果を考えると、eラーニング、オンライン上の対面研修などの組み合わせが必要だと気づきました。今までは全てがリアルの対面研修だったものの、例えば知識のインプットだけならeラーニング、視覚と聴覚を中心に使う研修ならオンライン上の研修、非言語コミュニケーションや場の雰囲気などまで必要な研修は万全のコロナ対策をした上でリアルの対面研修で行うことが必要だと。原点に立ち戻って研修自体をどんな方向がよいのか考え直したのが大きかったです。
次に考えたのが研修の効果です。人財育成・開発に携わっている方は悩まれると思うのですが、研修の成果や効果をどう測るのかを経営から必ず聞かれると思います。我々は研修後のアンケートの「気づきがありました」「理解できました」という声をもとに振り返っていたのですが、現場に戻ったメンバーを見ると、研修は研修、現場に戻ったら現場の仕事、と研修と職場が分断されており、非常に課題感を感じていました。いくら中身の良い研修を2日間やったとしても、現場に戻ると目の前の仕事に埋没してしまい、研修のことはいつの間にか忘れてしまっている。たくさん研修をしたとしても、果たして効果があるのか、と。
コロナ禍で研修のやり方自体も大きく変わる中、研修をやりながら自分の状態がわかり、実践してどうだったかのフィードバックがかかり、再び実践して変化があったかどうかが分かるようなシステムや仕組みが作れないのかと考え、昨年から取り組み始めました。
まだ100%うまく機能しているとは言えないものの、1〜2日の単体研修だったものが、半日〜1日のオンライン研修をした上で、実践の機会を設け、もう1日オンライン上で集めてインプット・理解・新しい知識の装着をしてもらい、再び職場での実践を経て、再度振り返る。その一連の流れを研修として構築していくことで、知識のインプットだけではなく、職場で実践した結果を持ちより、次の学びに繋げる。学びのサイクルをスパイラルアップしていくような、そんな研修が昨年度から今年度にいくつか組み立てられたと思っています。
皆川:具体的には、管理職手前の方に、組織目標の達成と部下の成長の両立を通じて「情理を尽くして人を動かすマネジメント実践力」を習得することを目的に、オンライン研修でインプットしながら、eラーニングで自己学習を補完し、職場実践と職場サポートの部分でKAKEAIをご活用いただく8ヶ月間の研修を行われています。上司の方にもアドバイザーとしてKAKEAIの中で1on1や成長実感、関わり方を見ていただき、月1回フォローもいただいています。
皆川:今期については、新入社員や中途入社者の活躍支援についても1on1を活用されています。いずれにせよ「対話」がテーマだと思いますが、人財育成部としては、現場の巻き込み方をどのように工夫されているのでしょうか?
粂田氏:受講者の上司の方には、研修前に「こういうことを学んできてね」と期待を伝えること、研修後は「研修がどうだったかを聞き、それを仕事にどう活かしていくか」伝えることをお願いしています。今回の研修は、8ヶ月と長期に渡り、上司の方にも研修のアドバイザーとして伴走するような形で関わっていただけたと思います。
皆川:中途入社者とその上司の方の対話では、どのような課題があるのでしょうか?
粂田氏:これまでオムロングループは新卒採用がメインだったのですが、3年前にキャリア入社者を新卒と同規模まで増やした結果、受け入れ部門がどう対応したらよいか分からないという状況が起きました。受け入れ側の体制が整っていない中、キャリア入社者の中にはかなり苦労された方もいらっしゃったと聞いています。
キャリア入社の方が困っていたのは、周りに相談する人がいなかったことです。上司も先輩も周りの方も忙しそうだったのでなかなか聞きにくかったと。必要なものは与えてもらったものの、実際には自分が100%パフォーマンスを発揮できる状態ではなかったと。それを聞いた時に、まずはキャリア入社の方に上司や周りの方がどう関わっていくかの仕組みを作らなければならないと思いました。
具体的には、KAKEAIを活用して、定期的に面談するタイミングを決める、何について面談するかを分かるようにするなど、キャリア入社者と受け入れ部門の上司の方が設計されたスケジュールに則って面談する機会をKAKEAIを使って設定しました。
皆川:事業変革していく中では、バックグラウンドやスペシャリティが違う方の採用も発生してきますが、まずは「相談できる人がいない」という点をサポートするということですね。実際にKAKEAIをお使いの方からも、こういうツールがあると上司と話しやすいというお声を頂いています。
まとめると、KAKEAIを使ってまずはやってみて、自分の状態が分かって、次に何をすべきかが分かる、変わったかが分かる。それを上司も一緒に見ることができる。そのようなサイクルを作ることで、オムロングループ様が目指している自律的・志というものが、デジタル化したことで日常においても取り組みやすく、シェアしやすくなったのではないかと思っています。
粂田氏:私たちもまだ途上ということで、試行錯誤しながら進めているのが実態です。人財育成に関しては、どうしても過去の勘と経験と知識の中から人財育成戦略や研修の企画を組み立ててきたのですが、Techを使って状態を可視化することで、企画側の目標やゴール感も作りやすくなり、何よりも受講されるメンバーや職場の方々にとって、自分たちの関係性の状態が把握しやすくなります。可視化して振り返るということが、今後非常に大事になっていくのではと思います。
全てをTechに頼るわけではないですが、テクノロジーと経験、専門知識を融合させたものが作れればいいのではと感じています。
メンバーと対話することの重要性、安心して自分をさらけ出せること、いいことも悩み事も上司に率直に話すことができること。仕事の面もそうですが、まず安心して話ができる状態を作ってあれば、上司側も少々厳しい要求ができるでしょうし、率直な話をしてくれるようになると思っています。
これから先を考えたときに、イノベーションを、イノベイティブなことを、生み出しましょうと我々も言いますが、その根底にあるのはお互いに腹を割って話せる状態をどう作るかということ。その手法の一つとして1on1を使うということだと私は認識しています。なので、まだ試行錯誤している途中ですが、引き続きやっていきたいですし、色々な情報をいただけたらと思います。